曇天

   ある朝   僕は   空の   中に、
黒い   旗が   はためくを   見た。
   はたはた   それは   はためいて   いたが、
音は   きこえぬ   高きが   ゆえに。

   手繰り   下ろそうと   僕は   したが、
綱も   なければ   それも   叶わず、
   旗は   はたはた   はためく   ばかり、
空の   奥処に   舞い入る   如く。

   かかる   朝を   少年の   日も、
屡々   見たりと   僕は   憶う。
   かの時は   そを   野原の   上に、
今はた   都会の   甍の   上に。

   かの時   この時   時は   隔つれ、
此処と   彼処と   所は   異れ、
   はたはた   はたはた   み空に   ひとり、
いまも   渝らぬ   かの   黒旗よ。

Source: Poetry (June 2025)